〜心〜 ――時々、Nの心が分からなくなる。 ……正確には、彼の考えている事、なのかな。 Nは、時々空を見詰めていた。 まるで、何かに思いを馳せるように。 Nと毎日を過ごす様になって、一年が経とうとしている。 そんな、長いようであっと言う間の月日。 彼は何かある度、空を仰いでいた。 何を考えているかは、分からない。 だから、少し不安になるの。 何も言ってくれないんだもの。 「N」 「ん? どうしたの、トウコ?」 Nは、ここ数ヶ月前に長かった髪を、バッサリと切った。 新しい人生を始める為に、過去に捕われず、現在(いま)を生きる為に。 髪が短くなったってNは何も変わらない。NはNだ。 そして、Nに対する私の気持ちが変わらないのも、同じ。 「教えて、Nが考えている事」 「どうしたの、急に」 本当は気付いているんでしょ? 私が不安がっている事。 貴方は、昔から意地悪だもの。 「時々、空ばかり見ていて、不安なの。何も、言ってくれないから」 Nの瞳が、小さく見開かれた。 未だに私は、Nの瞳の色を何と呼べばいいのか、分からない。 角度の違いで、Nの瞳は色を変える。 ただ一言で表すなら……、――――綺麗。 そんな綺麗な瞳に映っているのが私だなんて、正直信じられない。 「ごめんね」 「!」 謝罪の言葉と共に、Nの手が、私の頬に触れる。 Nは困ったような笑みを浮かべて。 「君を、不安にさせるつもりはなかった」 「…………」 何も、言わない。 私は、何も言わなかった。 不意に、Nが私を抱き寄せる。 「ボクは。ボクはね、トウコ」 彼が、何かを伝えようとしている。 なら私は、きちんと聞いてあげなきゃ。 「どうすれば君を、これからも守って行けるか。それを考えていた」 「――――!?」 閉じた目を、Nが言い終わるか否かに、勢い良く見開いて、Nの顔を見る。 その瞳はまた、空に向けられている。 すっかり涼しくなった、秋の空を。 「いくらトウコが運動神経抜群でも、君は女の子だ。 そしてボクにとって、君は世界で一番特別な女性(ひと)。 だから守りたいって。そう思ったんだ。 どうしたら君を、これからも守れるか。 それをずっと考えてた」 「………私、貴方が思っている程、弱くない」 強く在りたい。 だけど、その中にはやっぱり恐怖もある。 強くなって行く事で、孤立してしまうんじゃないかって。 「トウコが強いのは、ポケモンバトル。本当の君は、とても弱い」 ――――違う。 「昔、ボクは君に一度だけ、酷い事を言ってしまった。あの時、君は強気に、ボクに向かって言い返したけれど…… 後からトウヤに忠告を受けた」 “俺はトウコの兄じゃない。 けれど、これだけは言わせてくれ。 ……トウコを泣かす奴は、誰であろうと許さない” あの穏やかなトウヤが、そんな事を……? いつも優しい笑みを浮かべて、私を妹のように慕ってくれる幼馴染。 「君は、ボクがいなくなった後、泣いていた。それを偶然通りかかったトウヤが、見つけたんだ」 「やめて!!」 それ以上聞きたくなくて、思わず叫べば黙り込むN。 「もう、やめて。聞きたくない」 確かに、Nと別れた後、私は泣いていた。 でも、そこを偶然通りかかったトウヤに見られ、物凄い心配をされた。 私は、強がりだから。幼い頃、今はこれでも、よく泣いていた。 ベルと一緒に。 だから、トウヤやチェレンにしょっちゅう迷惑をかけていたから。 だから、旅に出る時、もう絶対に泣かないと決めた時筈なのに。 Nと、城で別れる際、あんなに泣いたのは久々だった。 「強がらなくていいよ。泣きたい時は、泣けばいいんだ。だからトウコ、ボクに全てを見せて。 君の笑顔も、君の涙も、君の怒りも」 「………これから、努力して行くわ。今は、貴方の心を聞けただけでも、充分だから。 ――――ありがとう」 少しだけ、安心した。 彼の心を、知る事が出来たから。 「トウコ、ここで誓うよ」 私の両手を、自らの手で包んで。 そして、真っ直ぐ私を見詰める。 「まだ、これからも君を守って行く術はないけれど。でも、ボクは誓う。君を、守り続けるよ。 だからトウコ。……ボクの傍にいて? どんな時でも、君を守れるように」 「……ええ。その代わり、誓ったからにはきちんと守ってね? 王子様?」 「フフ、仰せのままに、お姫様」 手の甲に口付けを落としたN。 私は、Nの事を“王様”だなんて、絶対に呼ばない。 呼びたくない。 だから私は、彼を王子様と呼んだ。 何故かって? 理由は簡単。 ……彼は私の、王子様だもの。 優しくて、純粋で、逞しい王子様。 「ねぇ、トウコ」 「何?」 「……観覧車、乗りに行こうか」 「……ええ、喜んで」 前は互いに、敵同士だった。 あの時は、かなり気まずくて、挙句の果てに、 “ボクがプラズマ団の王様”だなんて、 訳の分からない変な事を突然言い出すし。 でも今回は、きっと楽しめると思う。 大切な人と、一緒に。 きっと彼となら、何処まででも行ける気がするから。 ねぇ、N? きっと、笑い合えるわよね。 思い出話に華を咲かせて、これからの未来を、話し合う事が出来るわよね。 貴方の心を、いつでも知る事が出来る。 だから私は、これから先の未来を、貴方と一緒に。 完

燐静翠玉さんから誕生日祝いの素敵小説をいただいちゃいましたーvv図々しくもN主♀の小説が見たい!と(また)リクエストしました><
本当に何度もお願いしてすみません><;;そしてこんなにほのぼのでラブいおいしいN主♀の小説書いてくださって感激です(TT*
Nって何を考えてるか分かりづらそうだけれど、きっとその気持ちは純真なんですよねvNに対してお姉さんぶろうと頑張るトウコちゃんの図が好きすぎます///
燐静翠玉さん、素敵な小説ありがとうございます!

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