―――お兄様、C.C.さんの誕生日はいつなんですか?
「……」
愛しい妹の疑問とはいえ、投げかけられた予想外の疑問に言葉に詰まるルルーシュであった。
コードギアス―反逆のルルーシュ― Another
−魔女と皇子と喧騒の日−
親友(スザク)との再会や、皇族復帰、国際問題に他国まで巻き込んだ王位継承問題など多種多様なイベントに富んだ
―――というより富みすぎた年も漸く終わりそうな11月末。
色々とあり、取り巻く環境が変わり友人知人が一気に増えたが、とりあえず現状維持ということで落ち着き、
変わらずアシュフォード学園に通うルルーシュとナナリー。
ごたごたとした書類の問題も漸く片付き、一息つきながら書斎で休んでいたルルーシュ。
書斎といいつつも書類を片付ける間にC.C.に(ほぼ)部屋をのっとられたため、
書斎(ここ)がルルーシュの現在の部屋でもある。
そんななか、扉をノックする音が聞こえ、対応すると入ってきたのはルルーシュの愛しい妹であるナナリー。
そういえば、最近は忙しくて全く構ってやれなかったことを思い出し、紅茶にケーキと、
どこから用意したと言わんばかりの早業で取り出し間食の準備を整えたルルーシュ。
入ってきた時の様子から疑問か頼みのどちらかだと予想する。
(今までの問題がどうやって片付いたかということか、
仲の良かった異母妹の居場所もしくはスザクとユフィのブリタニアでの現状か?
―――いや、11月末だから来月のクリスマスプレゼントのおねだりか? ふっ、任せろナナリー。
望むならブリタニア皇帝の座だろうがなんだろうと用意して見せよう!)
今までナナリーからおねだりされたことがないため、密かにそのイベントに憧れを持つルルーシュ。
なぜ、そのイベントが十数年間なかったかといえば、
そもそも、ルルーシュがナナリーを把握しすぎているため、おねだりする必要がないのだ。
その事に気づいていないため、自分は頼れない兄なのではないかと一時、不眠症寸前まで悩んだのだルルーシュは。
漸く起こった(かもしれない)イベントの前に、テンションの上がるルルーシュ。
連日連夜の忙しさも相まって思考が完全に暴走しているが、彼にとっては些細な事。
ちなみに、ルルーシュの思考どおりに皇帝の座を用意しようとすると、今までの努力が全て無に返り、
また今年と同じかそれ以上の問題に発展する事が確定する。
「あの、お忙しいのでしたら、他の人に尋ねますので、お兄様は自分のことをしていただいても…」
完全に思考が暴走しているルルーシュを、疲れているのだと勘違いし、去ろうとするナナリー。
―――しかし、そんな事を認めるルルーシュではない。
「いや、ちょうどキリが良くて休憩しようとしていたんだ。それに、ナナリーと話している方がいい気分転換になるからさ」
と、いつものように笑顔で話しかけるルルーシュ。
その様子に先程までの暴走は一切見られない。
「いいのですか、お兄様?」
「もちろんさ、ナナリー。それで、どうしたんだい?」
確認するナナリーに返すときも不備がない。
疑問か、頼みか、皇帝かと逸る気持ちを抑えてナナリーの言葉を待つ。
「教えてほしい事があるのですが―――」
「今までの事や、ユフィたちのことかい?」
おねだりじゃなかったのか、と思いつつもそんな態度はおくびにも出さないルルーシュ。
すぐに思いつく聞かれそうなことか尋ねるが、否定するナナリー。
では、何のことであろうと思ったときに、ナナリーから出たのが冒頭の言葉。
あまりにも予想外の質問だが、答えねばと思い、言葉にしようとして気づく―――知らないのだ、ルルーシュも。
(アイツの誕生日は今の年号と一致するのか―――いや、
そもそも、誕生日など知っている奴がいるのか、アイツ自身を含めて…)
加えて、ルルーシュの考えるとおり、C.C.の生まれは遥か過去。
現在の暦と比べて一致するかどうかも怪しく、そもそも、C.C.自身、
奴隷であった事から生まれを覚えているかすら怪しいのだ。
「お兄様?」
「あ、ああ。ごめんナナリー。C.C.の誕生日だけど、オレも知らないんだ―――
というより、C.C.自身を含めて、知っている人は居ないと思う。
C.C.にも事情があってさ」
そうなんですか、と残念そうなナナリー。
その様子を見て放っておけるわけのないルルーシュ。
「C.C.の誕生日はわからないけど、祝うことなら出来るんじゃないかな、ナナリー?
問題も片付いた事だし、C.C.の誕生日という事でパーティでもするのはどうだろう?」
もっとも、王族趣向のじゃなくて、一般庶民のパーティだけどね、と和ませるように笑いながら付け足す。
その案を聞いて表情を一変、喜ぶナナリー。
「すばらしい案です、お兄様! では、皆さんへの連絡は私が行ないますので、
どのようなパーティにするかはお兄様にお任せしてよろしいでしょうか?」
「わかったよ、ナナリー。企画・準備含めても一週間もあれば大丈夫だと思うよ。いつが良い、ナナリー?」
「―――では、来週の金曜日にパーティの予定にしませんか?」
(来週の金曜日ということは5日か。特に予定もないし大丈夫だな)
「構わないよ。それじゃあ、金曜日に出来るように準備をしておくよ」
「お願いします、お兄様。でも、お1人では無理じゃないですか?」
「そうだね―――準備のときは少し厳しいから、
連絡できて参加可能者の中から木曜日に時間がある人が居れば手伝ってもらえるように聞いてくれないか?」
「わかりました。それでは、そちらの件も聞いておきますね」
その後はのんびりと間食をとりつつ、雑談する2人であった。
「確か、この材料なら……」
確認しながら町を歩くルルーシュ。
先日のナナリーの相談よりわずか2日。
残る仕事をあっさり片付け、C.C.にばれないように準備を始めたルルーシュ。
部屋の準備の道具と当日の料理用の材料を集めに街へと出かけている。
「そっちじゃなくて、この通りを行った先だよ、ルルーシュ」
と訂正を入れるのはルルーシュの親友であるスザク。
ナナリーより話が伝わり、最優先で確保された労働力が彼。
最初は木曜日で充分、との話であったのだが、買出しに行くのがルルーシュと聞いて、強制的に加わったのだ。
本人に聞かれると機嫌が悪くするが、平均的男子学生よりも体力で劣るルルーシュ。
そんなルルーシュに荷物を持って買いまわらせるということはかなりの難題であり、
そのことを理解しているスザクが名乗り挙げた。
「そういえば、急な話なのに、よく戻って来れたな、スザク」
「そろそろ一度戻ってこようと思ってたからね。ユフィも一度休もうと考えていたし、今回の話はタイミングがよかったよ」
もっとも、ナナリーから急に連絡が来たときは驚いたけどね、と締め括る。
そうなのか、と続けるうちに話題はブリタニア現状や、他の王位継承者へと移る。
(やっぱり、5日が何の日か覚えてないみたいだよ、ナナリー。
ユフィとカレンと一緒にそっちは頼んだよ)
と、内心あきれながら、心の内でそう考えるスザク。
スザクやユフィがあえてこの時期に休息をとろうとする理由にやはり気付かないルルーシュであった。
「ナナリー、ルルーシュがどこにいったか知らないか?」
やや不機嫌なオーラを放ちつつ訊ねるC.C.。
ルルーシュとスザクの買い物から2日、相変わらず準備に奔走するルルーシュであり、
その結果、C.C.は全くルルーシュに会えなくなっていた。
ただでさえ先の騒動の後片付けをいくぶん担当していたことが原因で、
今までのような気軽な要求や傍若無人な行いができないでいたのだ。
ルルーシュ同様、漸く大半が片付いたため、息抜きをしようと思えばその相手がいないのだ。
C.C.のストレスは相当なものになっていた。
「お仕事は大分片付いたようですが、また、何か用事ができたみたいでお忙しいようですわ。
私も最近はほとんど会っておりませんもの。
ユフィお姉様や、カレンさんはお兄様がどこにおられるかご存じですか?」
「え、えっと、2日前にスザクから会ったとは聞きましたがそれ以降は知りません」
「あ、あぁ、私も同じよ。最近は授業もほとんど参加してないからね、アイツは」
そんな、C.C.の様子を見ても動じることなく返すナナリー。
対照的に、急に話題を振られた2人は、予想外だったのか、ひどく動揺していた。
(今回の原因なのに、このC.C.を見ながら平然と返すなんて…)
(ルルーシュ、ナナリーを逞しく育てすぎよ)
戦慄しながら内心でナナリー、恐ろしい子と感じていた2人。
実際のところ、ナナリーがこのようになった原因はルルーシュではなく、
コーネリアや咲世子さんなどの有能な人物たちの影響であるが、2人がそのような理由を知るわけがなかった。
「C.C.さん、お兄様にお急ぎの御要件でもあるのですか?」
もし、あるのに放置してたのならお兄様はお仕置きです、と表情には一切出さずに黒いことを考えるナナリー。
同時刻、ルルーシュが悪寒を感じたのはきっと気のせいではない。
「いや、用と言うわけではないんだが――――その、最近、ルルーシュとまともに話す間もなかったのでな」
と、答えるC.C.から感じられる先程以上の不機嫌なオーラ。
内心で悲鳴をあげながら、ルルーシュ、何とかしなさいよ、と痛む胃を抑えて祈るユフィとカレン。
しかし、人の感情に敏感であるナナリーのみが先程とは違い、その不機嫌さが寂しさからきているということに気づく。
(お兄様、お仕置き確定です)
それは何も悪くないはずのルルーシュがお仕置きされることが確定した瞬間であった。
「お兄様もお忙しいようですから…。
代わりと言ってはなんですが、御一緒にお茶でもいかがですか?」
その言葉に、一瞬ピシリと固まる2人。
正直、こんな胃の痛むお茶会はごめんであり、本日の話題はC.C.に内緒である、5日の準備についてである。
参加するなら当然話題を変える必要があり、その場合、ナナリーよりどんな無茶な話題をふられるか分かったものではない。
「―――いや、ルルーシュも居ないことだし、先に残る書類を片付けることにする」
そう言い残して去っていくC.C.。
ホッとする2人を余所に、ルルーシュのお仕置きのバージョンアップを考えるナナリー。
もし、C.C.が参加したならば、2人は予定日を前に倒れていたかもしれない。
果てしなく疲れた様子で書斎のソファーに倒れるルルーシュ。
「や、やっと大半の物が揃ったな」
その言葉の通り、彼の横に置かれるは途方もない量の様々な素材。
「―――ルルーシュ、キミが安請け合いしなければ、もっと早く終わったことは理解してるよね?」
呆れながら告げるスザクだが、それも当然。
本来ならば昨日には終わっていたのだが、2日前のお茶会により、結構されたお仕置き。
その結果、パーティの準備の質を大幅に上げることとなったのだから。
「―――仕方ないだろ、ナナリーのお願いなんだから」
そう返すルルーシュの視線はスザクから反らされている。
自分が原因であることは理解しているが、だからといって断れないのだ、ルルーシュは。
「まったく、キミは…。そもそも、今回はC.C.の為なんだろ?
あんまり、ナナリーに頼まれたとかだと、全然彼女のためとか感じられないよ?」
はぁ、とあからさまなため息と共に告げられた言葉。
しかし、ルルーシュとしてもそこまでいわれて黙っているだけではない。
「違うぞ、スザク。確かに、ナナリーの言葉が切欠とはいえ、買う予定はあったんだ」
と返すルルーシュが指すものは一番大変だったものである窯。
今回の後始末において、C.C.が頑張って後処理をしているおかげでルルーシュの負担が格段に減っている。
そのため、もとより何か御礼をしようとは考えていたルルーシュ。
C.C.といえば、ピザという式が成立しているため、考えていたのがピザ用の窯。
しかし、食べること専門のC.C.なので、
作るのは十中八九ルルーシュになることが確定するため、購入検討の状態であった。
よって、すんなりサイズや置き場も決まったのだが―――。
「でも、ルルーシュ。流石に準備前日にこの窯を組み立てるのはきついんだけど…」
スザクのいうとおり、今から組み立てるしかないのだ、パーティに間に合わせるには。
元から準備していたとはいえ、窯を組み上げるのは並みの労力ではない。
加えて、C.C.にばれてはいけないためこれ以上人手を増やすわけにも行かず、しかも時間も2日と残っていない。
さらに、ルルーシュの場合、これ以外の準備も残っているという、かなり絶望的な状況。
「―――ふっ、私は不可能を可能にするゼロだぞ、スザク。この程度のことなど…」
「はいはい、現実逃避はそれぐらいにして、とっとと組み立て始めるよ、ルルーシュ」
目線をそらしながら言い出すルルーシュを引きずりながら窯の組み立て予定場所へ向かうスザク。
結局、不眠不休で挑んだ2人により、完成したのは当日の早朝であった。
「やっと見つけたぞ、ルル―――しゅ!?っ」
がちゃ、とドアを開いて漸く探し人を見つかったことを喜ぶC.C.。
しかし、その言葉が完結する前に、驚きへと変化する。
だが、それも当然。
出迎えたのは予想もしていなかったクラッカー音であったのだから。
「―――ナナリー、これはいったい…?」
「ふふ、驚いてくれましたか、C.C.さん?」
呆然とするC.C.に実に嬉しそうに告げるナナリー。
全ての準備が整い、いよいよ決行となったサプライズパーティ。
まず、ナナリーが始めたのは全員を集めての準備。
参加者全員にクラッカーをいきわたらせ、配置も完了した段階でC.C.へと電話で告げたのだ、お兄様が居ましたと。
その結果が実に満足いくものであったのだから、ナナリーの喜びも相当なもの。
「ちょっとこっちに来てくださいね」
「あ、ああ」
といってナナリーにつれられるまま奥へと進むC.C.。
途中何人かが何かを堪えている用に感じたが、それを問い詰めるほど、冷静には回復していない。
「―――ルルーシュ」
「? C.C.? 何だ、まだ聞いていないのか?
今回のこれは―――」
奥に居たのは不眠不休でスザクと仕上げた窯を使いピザを焼くルルーシュ。
普段ならその様子に全てを無視してピザまっしぐらなのだが、
今回は不可解なことが多すぎる為、どういうことだと視線で問いかけるC.C.。
その様子を見て、まだ説明していなかったのかと不思議に思い、自身で今回の説明をしようとするルルーシュ。
だが―――
「お兄様、C.C.さん、お誕生日おめでとうございます」
と笑顔で告げるナナリーの言葉に次いで一斉に鳴らされる先程より多いクラッカー。
びくっ、と反応しながらどういうことだか訳がわからず混乱するルルーシュとC.C.。
「どういうことだ、ルルーシュ?」
「C.C.のためのサプライズパーティじゃなかったのかい、ナナリー?」
同時に発せられたその言葉に笑う全ての事情を知るナナリーやスザク、ユフィ、カレンといった者たち。
「つまり、2人を驚かせるための計画だったんだよ」
笑いながら告げるのはスザク。
相変わらず疑問符を浮かべる2人に行われる種明かし。
「始まりは、私がC.C.さんのお誕生日をお兄様に尋ねたことなのです。
でも、お兄様もわからず、C.C.さんご自身も多分知らないだろうということでしたので
サプライズでお誕生日パーティをしましょうと提案したんです。
ちょうど、お兄様のお誕生日も近かったので、ご一緒にしようと思い、お兄様に頼んだのですが…」
「見事に自分の誕生日を忘れていたんだよね、ルルーシュ。
それを最初の買い物で確認した僕がみんなに伝えて、ルルーシュも驚かせようってことになったんだよ」
ああ、あのときかと漸く気づくルルーシュ。
そこまで聞けば、何故ユフィやスザクがこの時期にちょうど戻ってきたのかという理由も、
ナナリーがみんなに伝える役を引き受けた理由にも気づく。
「それでは、目的も果たせましたし、みなさん、きちんとパーティを始めましょう」
漸く納得の言った2人を見て言いなおすナナリー。
ナナリーの言葉により始まるパーティ。
集まったメンバーがメンバーでもあり、賑やかなものになったのはいうまでもなかった。
「―――誕生日とは、こういうものだったのだな」
開始から数時間。
流石に料理や準備した遊びなども全て底をつき解散となったパーティ。
片付けは任せてください、と張り切る咲世子に任せ、(元)ルルーシュの部屋へと戻ったルルーシュとC.C.。
漸く一息ついた中、発せられたC.C.の言葉がそれであった。
「C.C.、やはり―――」
「ふふ、今更だな、ルルーシュ。魔女と謳われた私にそのような機会があるはずもないだろう?」
ルルーシュの想像通り、祝われたことどころかその日付すら覚えていないC.C.。
「そんな顔をするな、ルルーシュ。これからは私の誕生日も12月5日でいいのだろう?
過去になくとも、これからいくらでも祝ってもらえるのだからな」
しかし、この日よりC.C.の誕生日は12月5日―――すなわち、ルルーシュと同じ日である。
これは、これより悠久の時をC.C.が過ごそうとも変わることのないもの。
「そうだルルーシュ。誕生日といえばプレゼントじゃないのか?」
と、急に何か思いついたのか笑みを浮かべて告げるC.C.。
その言葉に呆れるルルーシュ。
「準備の一切合財が俺の担当だったんだぞ。そんな余裕があると思っているのか?
そもそもそれをいうなら、お前の方こそないの――――!?」
言い切る前にC.C.の口付けにより防がれる唇。
何事かと考えるが、突然すぎることに対応できないルルーシュ。
たっぷり5分は堪能した後、ルルーシュを開放するC.C.。
「な!? い、いきなり何を!?」
「用意してないんだろ、プレゼント?
だから、自分で欲しいものを頂いて、そのお返しと私からのプレゼントだルルーシュ」
平然としているように見えるが、冷静な人が見れば一発で判るほど紅くなっているC.C.。
しかし、見事に冷静でなくなっているルルーシュがそんなことに気づくはずもないのであった。
水無月さんから誕生日祝い小説をいただいちゃいましたーv
な、なんという夢と萌えの詰め込みっぷり・・・!ルルーシュもC.C.もみんなも可愛すぎます*><bb
というか、こんな未来があったらよかったなぁとしみじみ思います(涙)夫婦一緒の誕生日なんて羨ましいです+*
最後のキスもとても美味しいですね(*´ω`)水無月さん、素敵小説をありがとうございました!